いつか見たあの太陽と空の時間
幼い頃、空は今よりずっと高く広かった。
きっとそれはまだ僕が小さく、視線をいつも上げていたからかもしれない。そして見上げた先にはいつも自分の手とつないだ父の大きな手、そして金の腕時計があった。時折光を受けてキラキラと輝く様子はまるで太陽のようにも見えたのだった。
技術者だった父は物静かで、自宅にいても図面や書類と向き合い、生活も派手さとは無縁だった。
だがその金の時計だけは違っていた。そうした違和感もあって僕は興味を抱いたのだろう。そんな僕に父は言った。
「これは僕たち日本人がこれから目指すべき道を世界に示した時計なんだよ。時間というのは何よりも大切なものだ。だから時計は正確で、便利で、人の役に立たなくっちゃいけない。父さんはそんな時計を誇りに思うし、自分もそういう道具を作りたいと思うんだよ」。
あまり理解できなかったけれど、子供心にもどこか父らしいと思った。やがて見上げていた父への視線が同じ高さになり、僕はまっすぐに自分の前を見て歩き始めた。
医療機器の開発の道に進んだのもそんな父の影響からだ。時代はAIへと進化したが、モノづくりの基本は変わらず、効率や合理性だけではなく、数値では計れない理念や情熱が求められる。
決して表舞台に出る仕事ではないけれど、やりがいは強く感じている。そんな僕の腕元にある時計は、父と同じグランドセイコーだ。
誕生から60周年を記念して、初代モデルを復刻した。太く存在感のある時分針と、細く鋭い秒針が力強く確実に時を刻む。カレンダーを省いたシンプルな文字盤は、時を計るという時計の本質を追求し、極限まで削ぎ落とした潔さが伝わってくる。
そんな変わらぬスタイルに、ケースは大径化しているが、それも幼い頃の父の時計の印象に近い。見上げたあの空の広さのように。
復刻とは“刻を復す”と書き、本来時計にはありえないことだ。しかしこうして甦った時計に惹かれる。人はなぜそれを求めるのか。
この時計をするようになってわかったこと、それは大切な人と過ごした時間を思い起こし、さらに誰かにつなげるためではないかということだ。
あの頃の父に年齢が近づき、僕にも今手をつなぐ息子がいる。彼の目に空はどのように映っているのだろう。そしてこの時計は。
いつか僕も父のように希望が語れるだろうか。
GRAND SEIKO
グランドセイコー/エレガンスコレクション 初代グランドセイコー デザイン復刻モデル
グランドセイコーは、1960年に当時最も高精度を誇ったスイスのクロノメーター規格と同等の精度を実現した。その誕生60周年を祝し、初代モデルを復刻。
オリジナルのスタイルを活かしつつ、ケースは金貼りからK18YGを採用し、歴史に相応しい風格とともに、35mm径からのサイズアップで存在感も増した。またドーム状のカーブを描く風防もサファイアガラスになり、視認性や耐久性も向上。最高峰の時計を目指すマイルストーンといえよう。
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